インタビューこの人、一家言

沖縄を再び戦場にさせないためにⅡ

「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」・山城博治さんインタビュー

ナカムラ 2024/09/15

知事出席の背景―真剣勝負の積み重ね―

 

―それにしても、なぜ知事出席を勝ち取ることができたのでしょうか?

 

これには、長い経緯があります。実は、私は、昨年初めころまでは、知事に批判的な言動もしていました。これは、地元紙でも報道されたことなので、申し上げますが、辺野古の問題で県庁と何度か「衝突」したのです。

 

辺野古の埋め立て土砂を搬出する本部港塩川地区という港があります。毎日、市民がそこに集まって、土砂搬出を遅らせようと、座り込みをしたり、抗議の声を上げたりしています。その県管理の本部港塩川地区について、辺野古埋め立て土砂の搬出港とする防衛局の使用申請を認めたのは、そもそも玉城県政でした。

 

さらに、同港湾施設内のベルトコンベアーの設置についても問題がありました。沖縄防衛局から委託を受けた事業者は、埋め立て土砂をダンプカーから運搬船にスムーズに流し込むために、港湾内にベルトコンベアーを設置しています。その設置についても、知事は許可を出していました。

 

私たちは、辺野古に絡む問題だからという理由だけで、県は許可すべきではないと主張していたわけではありません。ここでは詳細は省きますが、港湾施設内における埋め立て土砂の仮置きにしても、ベルトコンベアーの設置にしても、沖縄県の条例の要件を満たしておらず、違法だからやめさせるべきだと繰り返し県庁に要請したのです。

 

―意外ですね。「ガラス細工」とも称されていたオール沖縄の中で、そんなやり取りがあったとは……

 

続きがあります。安保関連3文書が出たときです。安保関連3文書には、有事の際には、すべての離島の港湾施設、空港を自衛隊が軍事利用すると明記されています。そこで、私たちは、県に、「沖縄を軍事占領するような約束事を丸のみするわけにはいかない。県として国に強く主張すべきだ」と要請しました。

 

ところが、県から来た回答は、「法令上、港湾施設や空港の使用を許可しないわけにはいきません」といった内容でした。

 

さらに、米軍についても、「日米地位協定によって、米軍はどの港湾施設、空港でも自由に使えるよう認められています」といったものでした。これには唖然としました。

 

―ゼロ回答に等しいわけですね……

 

私たちは、最初、県庁の事務方や部長クラスと交渉していたので、これは、玉城知事の本音ではない、と考えたのです。知事の真意を問いただそうと、県庁6階の知事室前に仲間たちと座り込みました。1時間くらい座り込んだと思います。その場で、知事が出てきたわけではありませんが、後日、照屋義実さんと池田竹州さんという副知事2人が私たちとの話し合いの場をつくることを約束してくれました。そこで、その場は一旦引き上げることにしました。

 

後日開かれた、その両副知事との話し合いの場で、私たちは、「知事が自衛隊を認めていることは理解しています。私たちは、いまある自衛隊に全部出ていけ!などと、知事に無茶な要求をするつもりはありません。国は、有事の際、県内のありとあらゆる港、空港をすべて軍事利用しようとしている。しかも、専守防衛を逸脱する反撃能力をもつ長距離ミサイルまで県内に配備しようとしている。これでは、沖縄が真っ先に標的にされてしまい、沖縄が再び戦場にされてしまいますよ。本当にそれでいいのですか。それが知事の真意ですか?」などと、思いのたけを説明したのです。

 

すると、両副知事は、「行き違いがあったようですが、私たち県が管理する港湾施設や空港を、国に自由に使わせるようなことはさせません」と応えてくれました。それを聞いて、私たちも安心し、「安堵しました。そこまで言ってくれるのであれば、今日は引き上げましょう」となったのです。

 

―大きな前進ですね。その後、知事の対応は?

 

知事は、防衛省に、県内への長距離ミサイルの配備に反対する旨、要請書を出しました。確実に県民の思いを汲んで動いてくれるようになったと受け止めています。私たち市民団体は、辺野古の問題にはじまり、自衛隊強化に至るまで、そのときどきの県内の政治課題について、ときには県サイドと激しいやり取りをしてきました。その真剣勝負の積み重ねが県民大会への知事出席につながっていったのだと思います。

 

ただし、誤解しないでほしいのですが、私たちの要請行動があったからという理由だけで、知事が私たちの期待どおりの動きをしてくれるようになったわけではないということです。

 

というのは、知事は、この間、昨年(2023年)4月に県庁知事公室に地域外交室という部署を新設し、県独自の地域外交を積極展開する方針を打ち出しました。

 

その地域外交として、知事は、昨年7月、中国を訪問しました。会談した中国の李強首相に、知事は、琉球・沖縄と中国との長い交流の歴史を紐解いて、今後もこうした友好関係を続けていきたい旨申し出て、李強首相側も、大いにうなずかれたそうです。

 

また、知事は、来県した中国大使の表敬も受けています。その表敬訪問でも、習近平国家主席が琉球・沖縄と長い交流の歴史をもつ福建省の省長(知事)をしていたことや、習近平主席が福建省長のときに沖縄県を2回も訪れていたことなどが話題に上がったそうです。

 

知事は、中国と戦争になり、沖縄が戦場になってしまことを強く懸念して、中国側に県独自の平和のメッセージを発信する必要があると考えているのだと思います。

 

そうした知事の動きを全体としてみたとき、私たちは、知事の動きは最近変わってきたな、11月の県民大会に来てくれるかどうかはわからないけれども、いずれ私たち県民運動に馳せ参じてくれるだろう、と期待していました。

 

―山城さんたち市民団体の側と、玉城知事たち県庁サイドがときにはぶつかり、ときには互いに連動しながら、新たな県民運動のうねりをつくり出そうとしている様がリアルに感じられます。

 

とはいえ、県政との溝がすべて埋まったわけでもありません。

 

この間の県内の状況を説明したいと思います。昨年3月、県は、石垣市、宮古島市、国などの機関とともに、有事を想定した避難訓練「沖縄県国民保護図上訓練」を実施しました。非常に馬鹿げた訓練です。石垣市や宮古島市などの先島諸島の住民と観光客およそ12万人を民間の船舶や航空機を使って九州77県に移送するという訓練です。国は1日当たり2万人、計6日間かけて避難させると言っていますが、有事になれば、逃げる場所などありません。沖縄は危険で、九州が安全だとなぜいえるのでしょうか? どのような方法で避難するのか? 有事の際に、船舶は足りているのか? 航空機は足りているのか? 国からは納得のいく説明はありません。こうした有事を想定した国民無視の図上避難訓練を、先ほど触れたとおり、沖縄県、つまり玉城知事は実施しています。

 

ただ、この図上訓練は、国民保護法という法律に基づいています。知事の立場からすると、県の参加は致し方ない面があります。また、繰り返される県内での日米共同演習についても、知事は、県民への影響が最小限になるよう自制を求めてきました。知事は、決して傍観していたわけではありません。難しい舵取りを強いられているようにも思えます。(続く)