取材GRASSROOTSインタビュー室

小学校3年生が始めた「プラストロー廃止」のための署名運動 ―社会は、9歳の声にどう応えたか

中村眞大 2025/08/25


社会運動は何歳から可能なのか。若者の社会運動を取材するなかで、私が最近抱えている疑問である。私は今まで、幅広い世代の社会運動経験者に話を聞いてきた。彼らに政治に触れたきっかけを訊ねると、学校教育や労働環境よりも「親や友人の影響」と答えた人が多かった。つまり、理論上は、政治に関心のある家族や友人が周囲にいれば、何歳からでも社会運動は起こせると言える。

大学生による運動は学生運動として認知されているし、高校生による運動もよく耳にする。中学生に関しても、「日本中学生新聞」記者の川中だいじや、Xで政治的な発信を行う「政治を変えたい中学生」(現:政治を変えたい高校生)ら、政治的な活動で一定の知名度を持つ者はいる。過去には千代田区立麹町中学校在学中の政治運動がきっかけで内申書裁判を起こした現・世田谷区長の保坂展人なども有名だ。

それより年少の運動だとどうか。すぐに思い浮かぶ人は少ないかもしれない。だが実際には、小学生以下が社会に働きかけた例も存在している。ここでは、そうしたケースをいくつか紹介したい。

たとえば2011年、東京都調布市の市立第三小学校の6年生たちが中心となり、引退が決まった京王電鉄6000系車両の存続を求めて署名活動を展開。地元メディア「調布経済新聞」がその様子を報じている。

また、2019年には東京都板橋区で突然の「ボール遊び禁止令」に直面した小学校6年生たちが、区議会に公園のルール見直しに関する陳情を提出。無事に採択された。昨年の千葉県船橋市では、小学校5年生がスケートボードの練習場所の整備を市議会に求め陳情、今年になり実現した。同じく昨年、神奈川県大和市の市立中央林間小学校の5年生が、子どもの声を学校や市政に反映させるよう請願を提出し、全会一致で採択された。

そして今年2月には、財務省前で突如行われた「財務省解体デモ」に、小学6年生の姿が確認された。彼はスピーチでこう訴えた。「子どもにも闇を暴かれて恥ずかしくないんですか!?」
国外では、2018年にドイツ・ハンブルクで小学生ら150人が「スマホじゃなくて私たちと向き合って!」「チャットするなら僕と話せ!」とスマホばかり見ている親に対するデモ行進を行った。このデモは、7歳のエミール・ルスティゲによって企画され、大きな話題を呼んだ。

このように、小学生以下であっても社会運動は起こせるし、成果を上げている事例も複数あるのだ。

本記事では、9歳の少女が給食用牛乳のプラスチックストロー廃止を求めて署名運動を展開した事例を詳しくご紹介したい。

東京・練馬区の区立小学校4年生・堀越えりかさん(2013年生まれ)は、母で大学教授(社会学)のホメリヒ・カローラさんと、自宅近くのカフェで取材に応じてくれた。堀越さんは、当時9歳(3年生)だった2022年9月、「給食用牛乳のプラスチックストローをなくしたい」と署名運動を行った。これは、私の知る限りでは、アクティビズムを自ら先頭に立って展開した国内最年少の事例である(より年少の例という意味では、親に連れられてデモに参加した人などはいる)。

久しぶりだという取材に緊張する堀越さんと一緒に、まずは注文したケーキを頬張り、一通り食べ終わったところで、質問を始めた。

堀越さんが最初に環境問題について興味を持ったのは、2年生のとき。母のカローラさんに買ってもらった、スウェーデンの気候活動家グレタ・トゥーンベリさんを取り上げた絵本がきっかけだった。気候危機を止めるため、国会前でひとり座り込みをしていたグレタさんの周りには次第に仲間が増えていったという内容。このほか、プラスチックごみによって生き物たちが苦しんでいるという絵本も読んだ。堀越さんは、「自分でも何かしたい」と思い、宿題の日記に「給食のプラスチックストローをなくしたい」と書いた。日記を読んだ担任が栄養士に相談してくれたが、「紙ストローにするにはお金がかかってしまって難しい」と言われてしまったそうで、その時は諦めるしかなかった。

3年生の夏、堀越さんは担任の提案で、学級会の場を借りて自分の思いを伝えた。「プラスチックストローを紙ストローかマイコップに替えたいです。みんなの考えも聞かせてください」。すると、多くの同級生が興味を示してくれて、一緒に環境問題について調べてくれた。結局、みんなで話し合い、3年生のなかのやりたい人だけが3週間、「マイコップ週間」と題した取り組みを行い、結果、1500本のストローを節約することができた。しかし、5クラス分の児童が学校でコップを洗う必要があり、水道費節約の観点から、その取り組みを継続させることはできなかった。「プラスチックストローに戻るのは嫌だ。これじゃあ、やった意味ないじゃん…」と堀越さんは思った。

しかし、運が良いことに、担任の知人に署名サイト「Change.org」のスタッフがいることがわかった。今まで「署名」という言葉すら聞いたことがなかったという堀越さんだったが、担任と「Change.org」のスタッフ、カローラさんも含めた4人でZoomミーティングを行い、さまざまなことを教えてもらったことで、署名運動をやってみることに決めた。そこで堀越さんは、署名サイトに書く文章に、絵本で知った「海に捨てられているプラスチックゴミが海にいる魚の数よりも多い」という話に衝撃を受けたということを書いた。堀越さんの書いた文章をカローラさんが添削し、9月22日、インターネット上に公開した。「わたしたちがかえなければいけません!わたしが通う小学校の給食では、毎日牛乳をプラスチックストローで飲んでいます。それをわたしたちはやめたいです!」。「Change.org」がSNSや報道機関に拡散してくれたこともあって、みるみるうちに署名の数は増え、最終的には3万2758人もの賛同を得ることができた。

堀越さんは、翌年2月9日の放課後、同級生たちから「頑張ってね」と見送られながら、カローラさんと親友の3人で署名を練馬区役所へ届けに行った。区からは前川燿男区長や教育長が出てきて対応してくれたという。事前に担任が区長役となって練習に付き合ってくれたおかげで、しっかり自分たちの思いを話すことができた。区長は、話を親身になって聞いてくれたが、最後に2人の頭を「ヨシヨシ」と撫でたそうで、堀越さん含め周囲にいた人々はドン引きしていた、と堀越さんとカローラさんは苦笑交じりに振り返る。

小学生が区に署名を提出したというニュースは、牛乳業者をも動かした。最大手の雪印メグミルクは堀越さんの活動をきっかけに、ストローレスの牛乳に変更、現在も多くの業者で脱ストロー化が進んでいる。

堀越さんの記事が新聞に載ると、担任がクラスみんなの前で紹介してくれた。「大人だけがえらいんじゃなくて、みんな平等でえらいんだよ。今回は、たまたま堀越さんが署名を集めたけど、みんなもいろいろ意見を言って良いからね」。堀越さんは、担任の言葉を聞いて自信をもったという。

カローラさんは、「えりかの活動をすごいと褒めてもらうことも多いけれど、常に問題意識を抱えているわけではないんです。普段は、遊んでいる普通の小学生です」と話す。社会運動を起こす若者は、時に英雄視され、神格化されがちだ。しかし、実態はそうとも限らない。「普通に遊んでいる子ども・若者」が社会を動かす―。これこそが、一番大切なことなのだと、取材を通して私は感じた。

※年齢や肩書は取材当時