人権NGOの現場からー「きっかけ」と「これから」
2025/08/12
普段、国際人権NGOに勤務しており、主にオフィス周りの事務などを中心にこなしている者です。なので、わたしはそんなに活動にコミットした仕事をしているわけではないですが、Glass Rootsのタナカさんにお声がけいただいて、私が差別や人権問題に関心を持つようになったきっかけや、これから考えていきたいことをちょこっと書かせていただきます。普段から文章をたくさん書くわけではないので上手くはありませんが、あたたかい気持ちで読んでいただければ幸いです…!
きっかけ
2014年頃、大学生だった私は、街中で行われていたヘイトスピーチデモの映像を、多くのニュース番組で目にしました。在日コリアンの方々に対する心ない言葉の数々に、画面越しに「どうして、こんなひどい発言が堂々とできるのだろう?」と、強い疑問を感じたのを覚えています。
日本で暮らす在日コリアンの方々が、どのような歴史的背景を持ち、この日本社会で生活してきたのか。それを少しでも知っていれば、人となりも知らずに「在日コリアン」というだけで、あんなにも差別的な言葉を投げかけるなんて、ありえない。そう、強く思いました。
でも、その一方で、自分自身に問いかけがあったんです。「私は本当に、誰に対しても決めつけや思い込みを持っていなかったか?」と。正直なところ、自信を持って「はい」とは言えませんでした。ヘイトスピーチのような露骨な差別とまではいかなくとも、「○○人ってこういうものだよね」という無意識の偏見や、勝手な決めつけを抱いていた瞬間が、確かにありました。全くの無自覚に、です。きっと、そういったことの積み重ねが差別を生んでいくのだと、ヘイトスピーチの問題を自分なりに考えていた時に、はっと気づかされました。
自分自身のそういった気づきや、排外主義的な言動が社会で行われている状況を目の当たりにする中で、「きちんと自分の目で社会を見て、差別の問題に深く関わりたい」という思いが芽生えたのが、差別や人権問題などに取り組もうと思ったきっかけとなりました。
これから考えていきたいこと
普段はオフィスでの事務的な仕事が中心で、活動の最前線にいるわけではありませんが、私なりに、これからじっくり考えていかなければならないと感じているのが、AIと人権教育です。
ご存じの通り、AIは私たちの暮らしにどんどん入り込んできて、その便利さはもはや手放せないほどになっていますよね。AIは膨大な情報を学習してさまざまな判断をしますが、その情報の中には、残念ながら偏見やデマ、差別的な内容も含まれているでしょう。もしAIがそうした誤った情報や偏ったデータをそのまま学習してしまったら、意図せずして、差別的な判断を下したり、特定の人々を排除するような結果を生み出してしまう可能性があります。
直近の参議院選挙でも、排外主義的な言動を含む多くの誤った情報が広められました。こうした情報もAIの情報源となり得ます。また、そうした誤った情報が意図せず人々の偏見を強化し、それが誤りであると判断しにくい状況が広がっていることも、事態を深刻化させているように思えます。
私自身、学校で体系的な人権教育を受けた記憶は、ほとんどありません。大学でたまたま差別問題に関心を持ったことで、人権について学ぶ機会に恵まれましたが、おそらく多くの大学生は、よほど意識しない限り、そうした機会を得にくいのが現状ではないでしょうか。
AIが社会をものすごいスピードで変えていく中で、私たちはこの新しい「差別」のリスクに、どう向き合っていけばいいのか。AIを開発する人たちだけではなく、AIを使う私たち一人ひとりが、人権に対する高い意識と、正しい知識を持つことが、これまで以上に大切になってきている気がしています。
AIの進化は、もう止められません。だからこそ、その進化が差別を助長するのではなく、誰もが安心して暮らせる、もっと多様性を尊重する社会を築くために役立つよう、私たち自身の意識も、アップデートしていく必要があります。これは簡単なことではないと思いますが、さまざまなルーツを持つ人々が尊厳を持って共に生きることができる社会をつくっていくためにどうすれば良いのか、しっかりと考えていきたいと思います。