海外の若者はどう社会を変えているのか 韓国・デンマークに学ぶ組織と支援のあり方
海外の若者はどう社会を変えているのか 韓国・デンマークに学ぶ組織と支援のあり方
2025/10/10
署名運動、記者会見、イベント、デモ……。日本の若者による社会運動の現状については、新聞などの報道で目にする機会も多いだろう。
一方で、海外の若者による社会運動の実情はどうだろうか。グレタ・トゥーンベリによる気候正義運動や、香港の学生たちによる民主化デモなど、世界的に報じられた例を除けば、日常的な活動や規模感を知る機会は少ない。今年の夏、私は韓国とデンマークを訪れ、現地で社会運動に取り組む若者たちに話を聞いた。本稿では、その実態を日本との比較を交えながら紹介したい。
韓国の若者によるムーブメント──年齢すら伏せる平等の文化
今年8月末、私はソウル市内のレンタルスペースで、青少年人権行動「あすなろ」(Action for Youth Rights of Korea)のメンバーと面会した。
あすなろは、青少年や児童生徒の権利向上を目的に、路上アクションや政策提言を行う社会運動団体で、2004年から活動を続けている。これまでに、韓国の約3分の1の自治体で制定された「児童生徒人権条例」や、選挙権年齢の引き下げなど、多くのアドボカシー活動を成功に導いてきた。予算規模はそれほど大きくないが、事務局スタッフには少額の報酬が支払われているという。会員数はおよそ300人、コアメンバーである活動会員は17人。多くがソウルに暮らす若者たちで、この日会ったメンバーの中には、正義党や進歩党など左派政党の学生部として活動する人もいた。民主党や国民の力といった大政党に比べ、より人権意識が高く、若者の声を聞いてくれることが、彼らの支持する理由なのだという。
なかでも興味深いのは、団体内の上下関係を徹底して排除している点だ。団体内には「あすなろイコール・カルチャー誓約」というグラウンドルールが定められており、「差別や排除のない、包摂的なコミュニティづくりを目指します」という前文のもと、「ため口に切り替える際は必ず同意を得ます」など、心理的安全性を守るための具体的なルールが記されている。
さらに印象的だったのは、上下関係を生まないために、メンバー同士が互いの年齢を知らない点だ。我々が質問するまで、とあるメンバーが20代後半だという事実を、その場にいた他のメンバーは誰も知らなかった。日本でも、グラウンドルールを整備して心理的安全性を確保している団体は多いが、メンバーの年齢すら伏せているという団体は聞いたことがなく、衝撃だった。
次に話を聞いたのは、気候変動をテーマに活動を展開する若者団体「Youth 4 Climate Action」(気候行動)のメンバーたちだ。気候行動は、国の気候変動対策が不十分だとして憲法裁判所に訴訟を提起し、昨年8月、裁判官9人全員の一致でアジア初の違憲判決を勝ち取るなど、大きな成果を上げた若者団体の一つだ。
気候行動は、国を提訴したり、路上でピケを張ったりするなどのアクションを行う一方、国のカーボンニュートラル基本法策定委員会にも最年少委員として参加し、政府の内部でも意見を述べてきた。こうした内外両面での活動を行う団体は、韓国では珍しくないという。
寄付金や財団からの資金で運営されており、アクションに必要な費用に充てるほか、事務局にはフルタイムのスタッフが5人勤務しているのだと教えてくれた。
60万人が所属するデンマーク最大の若者団体「DUF」
デンマークの首都・コペンハーゲンで話を聞いたのは、デンマークの若者協議会「The Danish Youth Council」(通称:DUF デュフ)のメンバーだ。DUFは、デンマークの社会系若者団体を統括する傘組織で、傘下には社会運動団体、ボランティア団体、学生自治会、生徒会、政党学生部、宗教青年部、ボーイスカウト、ガールスカウトなど81団体を抱え、その会員総数はデンマークの30歳以下の人口の半分にあたる60万人というから驚きだ。まさにデンマークの若者を束ねる『協議会』といえる。日本にも、民間のNGOとして日本若者協議会は存在しているが、その位置づけ、予算規模、会員数をとってみても、その規模の差は歴然だ。
DUFには、大きく分けて2つの機能がある。一つは若者政策の提言、もう一つは団体への支援である。
政策提言機能には、理事会が大きな役割を果たしている。参加団体から19人の理事が選ばれ、若者政策について議論し、政府への提言を行っている。さすがに60万人全体で合意形成を図ることは困難なので、いくつかの団体がまとめられた小グループごとに合意形成が図られ、理事会では多数決で議決する仕組みが採用されている。理事長はフルタイム勤務となり、小学校教員と同程度の給料が支払われているという。
もう一方の団体支援機能を担う事務局には、専門知識を持つ約50名の職員が雇用されている。事務、法律、国際、政策分析、団体支援、団体連携、総務の部署があって、参加団体への事務的、法律的サポートや団体運営に関するアドバイスを行っている。さらに、DUFの資金を、要件を満たした傘下団体や若者による社会運動へ分配する助成金の機能も果たしており、こうした支援を受けられることを目的に加盟している団体も多いという。では、なぜ、ここまで手厚いサポートが可能なのか。その最大の理由は、毎年4千万DKK(日本円にすると9億円)という多額の資金援助を政府から受けているからだ。これらの資金は、日本で言うところの競馬や宝くじなどの公的なギャンブルが元手になっており、所管する財団を通じてDUFに回される。こうした資金があるから、各団体への分配も可能なのだ。政府から資金を得ているとは言え、政府公式の組織というわけではないため、政府が運営に介入してくることもなく、独立した立場で運営が可能となっている。
DUFは戦後すぐに結成され、長らく若者団体の組織化を担ってきたが、時代の流れと共に徐々にその様相も変わってきているという。その最大の理由が、若者による社会運動の「非組織化」だ。グレタによる「Fridays For Future」をその代表的な例として、組織の形をとらないムーブメント型やキャンペーン型の運動が主流となってきている。日本でもこの流れはあるが、世界各国でも同じような動きがあるのだという。
DUFの加盟要件には「30歳以下の会員が500人以上」「総会があって民主的」「独立した銀行口座がある」などの厳しい基準があり、こうした基準のため、非組織型の運動は除外されてしまうため、DUFに加盟することはできないが、現在は非加盟枠という扱いで一部助成金などの恩恵を受けているという。
補足すると、野球チームや音楽クラブなどの非社会系若者団体はそれぞれ別の協議会があるほか、デンマーク領であるグリーンランドは独自の若者協議会を有している。
日本の若者社会運動への示唆
これらが、韓国とデンマークの若者による社会運動のリアルだ。最後に日本への示唆として、日本の若者による社会運動と比較したときに大きく異なる点を二つ挙げたい。
一つは、対外的な運動と対内的な提言を同じ団体が担っている点である。日本の場合、政府に対して提言を行うロビイング団体と、路上でデモなどを行うアクション団体は、かなり明確に分かれているが、運動の成功のためには、より積極的に連携し、相互に協力していく必要があるだろう。
もう一つは、社会運動への支援の手厚さだ。韓国・デンマークともに、事務局スタッフには給料が支払われており、それが団体運営の安定的な持続に繋がっていた。
DUFのような体制をすぐに構築することは難しいが、少なくとも、日本企業や公的機関による若者団体への支援を、今後さらに充実させていく必要があるだろう。