コラム私感雑感

「レイシャルプロファイリングとは何か」

宮下萌(弁護士) 2026/02/01

1 はじめに
 肌寒い日が続く今冬のある日のこと。とあるデパートの化粧ルームに入ったときのことだった。高校生と見られる二人の学生が化粧を直している最中、その学生の親ぐらいの年齢であろうか。とある女性も同様に化粧ルームに入り、化粧を直していた。
 学生二人は、すぐに戻る予定だったのか、財布も特に持たずに化粧ルームを後にした。荷物が大きかったから持っていくのが面倒だと思ったのであろう。何ということはない日常の光景だ。筆者も特に何も意識することなく、自分の化粧を直していたときのことだ。
 その女性がその学生二人に話しかけた。
 —「あなたたち、学生さん?」
 —「そうです。」とその二人が答える。
そこでその女性がこう言った。「危ないわよ。たまたま私だったから良かったけど…」「最近外国人が増えてきているからあなたたちも気をつけなきゃだめよ。」
 そして続けざまにこう言い放った「さっき中国人らしい人を見かけたから…こないだも自転車をそのまま持っていっちゃう外国人がいてね…」
 その学生二人も「怖いですね。」と答え、その女性の言葉を肯定しているかのようだった。
 これは些細な会話に聞こえるかもしれない。しかしながら、当たり前のように外国ルーツを持つ人と犯罪者とを結びつけるそのやり取りに、筆者は寒気を覚えた。
 このような外国ルーツを持つ人と犯罪者を結びつけることに「お墨付き」を与える行為の一つとして、本稿では「レイシャルプロファイリング」を取り上げたい。レイシャルプロファイリングとは、公権力による人種差別の一形態だ。その中でも、本稿では、路上での職務質問において見られる人種差別について焦点を当てたい。


2 レイシャルプロファイリングの定義 
 国連人種差別撤廃委員会「法執行官によるレイシャルプロファイリングの防止及びこれとの闘いに関する一般的慣行36号」(2020年)によれば、「レイシャルプロファイリング」の共通要素として、(a)法執行当局によって行われるものであり、(b)客観的な基準や合理的な正当化事由によって動機付けられておらず、(c)人種、肌の色、世系、国若しくは民族的出自、又はこれらと宗教、性別若しくはジェンダー、性的指向と性自認、障がいと年齢、移住者の地位、又は就労若しくはその他の地位等の他の関連する理由との交差に基づき、(d)特定の文脈、例えば、出入国管理や犯罪活動、テロリズム、又は法律に違反しているか、若しくは法律に違反している可能性があるとされるその他の活動との戦いにおいて利用されるものを挙げる。
 ここで着目したいのは、(b)「客観的な基準や合理的な正当化事由によって動機づけられて」いないという点である 。
 単に「外国ルーツを持つ人であるから」、「見かけが外国人風であるから」といった理由で行われる職務質問等は、「客観的な基準や合理的な正当化事由によって動機づけられて」いるとは言えない。
 このような警察官による人種差別に基づく職務質問は、客観的な基準や合理的な正当化事由によって動機づけられているとは言えない。典型的なレイシャルプロファイリングだ。


3 レイシャルプロファイリングの実態 
 日本におけるレイシャルプロファイリングの実態を知る手掛かりとして、東京弁護士会が行った「2021年度外国にルーツをもつ人に対する職務質問(レイシャルプロファイリング)に関するアンケート調査」¹が存在する。特筆すべきは、本調査において寄せられた多くの生々しい声だった。
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 ¹本調査については、東京弁護士会のホームページで公開されている。  

https://www.toben.or.jp/know/iinkai
/foreigner/news/2021.html

 例えば、明らかな警察官による差別的対応として、このような回答が寄せられた。

 ❝見た目だけで薬などを持っているのではと疑われた。終始乱暴で失礼な態度で、いきなりズボンを脱がされ、下のものを見られた。侮辱的だし差別的。とても心が傷ついた。何も持っていないのを確認したら、謝りもせず、脱がせたまま立ち去っていった。本当に失礼だし、警察官としてありえない。❞

 また、 愛知県警察本部が2009年4月に若手警察官向けに出した『執務資料 若手警察官のための現場対応必携』というマニュアル(愛知県警察本部地域部地域総務課編)においては、「不良来日外国人の発見」という項目において、思わず「ぎょっとしてしまう」ような以下の記載が見られる²。

 「心構え ☆旅券を見せないだけで逮捕できる! ◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!! ◎応援求め、追及、所持品検査を徹底しよう!!!
  一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、旅券不携帯、不法在留・不法残留、薬物所持・使用、けん銃・刀剣・ナイフ携帯等 必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した追及、所持品検査を行う。(原文ママ)」

 このようなマニュアルは、「外国人」ということのみを理由として、数々の犯罪について、外国人が行うことについて、「何でもあり」と決めつけ、「必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持」つことを、若手警察官に教示しているのである。
 レイシャルプロファイリングを「受ける」側から見ても、レイシャルプロファイリングを「行う」側から見ても、「外国人」をターゲティングし、犯罪者又は犯罪者予備軍として監視の対象とする警察官の差別的な眼差しが垣間見える。


4 人種差別的な職務質問をやめさせよう!訴訟について
 2024年1月29日、日本における公権力による人種差別を真正面から問う重要な訴訟が提起された。「人種差別的な職務質問をやめさせよう!訴訟」である³。本訴訟では、警察による職務質問についてのレイシャルプロファイリングの運用が違憲・違法であると考え、国や都道府県に対して、①レイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問についての国家賠償請求、②レイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問運用についての違法確認請求、③レイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問運用の是正について国の指揮監督義務があることの確認請求を行っている。
 2026年1月31日現在では、8回の口頭弁論期日が行われ、様々な証拠を提出して「レイシャルプロファイリングが行われていること」を立証しようとしている。この訴訟の判決がどのようなものになるかは現時点では明らかではないが、差別是正の一手段として訴訟がもたらすインパクトは大きい。
 日本に住む外国ルーツの人たちが安心して暮らせる社会を実現するためにも、是非多くの方にこの裁判の動向を見守って頂きたい。


5 終わりに
 冒頭に述べたとおり、私達が過ごす日常生活にも「外国ルーツを持つ人」と「犯罪者」を結びつける言説が広がっている。そして、このような排外主義的言説は、公権力たる警察官の差別的な眼差しによって正当化されている。
 レイシャルプロファイリングという深刻な人種差別の問題があるということを多くの人に知って頂くうえで、本稿がその一助となれば幸いである。
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 ²詳細については、社会課題の解決を目指す訴訟(公共訴訟)の支援に特化したウェブプラットフォームであるCALL4のホームページにおける訴状参照。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000128#case_tab
 ³本訴訟の概要等については、CALL4のサイトに掲載されている。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000128#case_tab