コラム私感雑感

バイオマスは本当に環境に良いの?~バイオマスの本質的な問題と最新の動向~

中根杏(FoEJapan) 2026/05/07

バイオマスは何が問題なのか?
再生可能エネルギーとして認識されている「バイオマス」。カーボンニュートラルとして、気候変動の緩和策とされています。しかし、この環境に良いとされている「バイオマス」は以下のような環境的・社会的な問題を抱えています。


①天然林の伐採
現在森林は、気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で2030年までに森林減少および劣化を食い止め、森林の回復に努めることが決定されるなど、国際的にその重要性が認められ、保全や回復の実践が求められています。それは、より貴重である「天然林」の保全の重要性も含んでいます。
しかし、再生可能エネルギーとしてバイオマスエネルギーが世界各国で推進されているため、バイオマス燃料の需要が拡大し、森林の伐採圧力になっています。
日本のバイオマス発電の燃料は、木質ペレット(乾燥させた木の粉を固めたもの)などの輸入燃料に依存しています。主要な輸入元であるカナダでは、木質ペレット生産のために貴重な原生林を伐採していることがNGOより報告されています。
このような貴重な森林の伐採は、生物多様性の損失につながるだけでなく、土壌の保水力を低下させることで土砂災害や洪水などの災害を誘発し、人々の生活にも大きな影響を与えています。


②CO2排出量の増加
生み出されるエネルギーの単位あたりで比較すると、燃焼時のCO2排出量は石炭より木材のほうが多いことは意外と知られていません。バイオマス発電所は、バイオマス燃料の燃焼で得られる蒸気により、タービンを回すことで電気を作る仕組みです。その意味では、石炭や石油、天然ガスなどを使った火力発電と同じく、燃焼段階で二酸化炭素が排出されています。しかし、現時点では、生産地の森林伐採による温室効果ガス(GHG)排出量との二重計上になってしまうことから、バイオマス燃焼分のGHG排出量は算定しなくてもよいことになっています。したがって、実質的に排出しているにもかかわらず、見かけ上は「炭素を排出していない」として推進されているのです。
さらなる問題は、伐採された森林が再生しないことも多くあることです。再生されたとしても燃焼した分の炭素の吸収には数十年以上の長い期間が必要であること、そして多くの場合、伐採されなかった場合の森林や土壌が蓄えることができた炭素量に及ぶことはありません。つまり、植林をしたからといって、同じ量の炭素が吸収されるわけではなく、空気中に炭素が残ったままになってしまうのです。これらの森林伐採時や燃焼時に加え、加工段階や生産国から日本への輸送段階などの過程でも多くの炭素を排出しています(FoE Japan,2024)。
したがって、バイオマス発電により多くの炭素が排出されているため、気候変動対策とは言えないのです。


③バイオマス燃料生産国で起こる人権侵害
近年、急激に木質ペレットの生産が促進され、日本にも多く輸出しているインドネシアでは、天然林を伐採し、単一樹種によるエネルギー産業用人工林(HTE)へ転換する事態が横行しています。このHTEの拡大は、インドネシア各地で起こっており、スマトラ、東ジャワ、カリマンタン、スラウェシ、マルク諸島にて、地域・先住民族コミュニティから食糧・医薬品・文化的慣行・生計に不可欠な森林へのアクセスを奪っているとして、昨年NGOから国連特別報告者に報告されました(Environmental Paper Network, 2025)。
また、昨年、私が同国スラウェシ島のゴロンタロ州へ聞き取り調査を行った際は、HTEを操業している企業によって、その周辺に住んでいる地域コミュニティへの事前の説明がない状態、つまり国際的に遵守されるべきと捉えられているFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)がとれていない状態で事業が行われていることや、大規模な森林伐採以降の洪水の発生頻度の増加や被害の深刻化など、人権の側面から憂慮すべき現状が浮き彫りになりました(FoE Japan, 2025)。
このように、再生可能エネルギーとして推進されている「バイオマス」の裏には、現地の人々のこれまでの暮らしを奪うような事態が起こっているのです。


バイオマスによる森林減少を防ぐために
FoE Japanは、日本におけるバイオマス発電が、このように天然林の減少・劣化や人権問題を引き起こしている事態を重視し、様々な活動を行っています(詳細はこちら)。
国外活動としては、現地調査およびネットワーキング活動を行っています。昨年はインドネシア・ゴロンタロ州へ赴き、地元のNGOと協力して、HTEの周辺地域に住む人々へのインタビューを行い、HTEによる生活の変化や影響を直接聞き取りました。ネットワーキング活動に関しては、同じくバイオマス問題に取り組むNGOとの定期的な情報共有や関係性の構築・強化、国際的な会議への参加により、国際的なバイオマスの動向を情報収集するとともに、国内向けに発信しています。


COPでのバイオマスに関する議論
では、国際的にバイオマスに関してどのような議論がされているのでしょうか?昨年開催されたCOP30では、森林は主に緩和対策に関する会議にて話し合われました。残念ながら、気候変動における森林の重要性が再確認されたのみで、具体的な森林減少・劣化を食い止めるための議論はされませんでした。
国内では、政策提言とバイオマス関連企業のモニタリングを中心に展開しています。政策提言は現地調査などに基づき、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)制度を統括している関係省庁やバイオマス事業に融資している公的機関および民間企業に対し、情報や懸念事項の共有とともに政策提言を行っています。そして、モニタリングでは企業への意見交換やアンケートを行い、バイオマス発電所や輸入燃料に関する状況の把握に努めています。
一方で、民間などによる気候変動に関する自主的な取り組みをまとめた「気候行動アジェンダ」では、熱帯林永続ファシリティの立ち上げやBelem 4x Pledgeなどが新たに生まれました。しかし、一見気候変動対策に寄与しそうな上記の取り組みには様々な指摘があります。
例えば、熱帯林永続ファシリティでは、投資により集められた資金が熱帯林を保有する国々に分配され、その分配された全資金の2割しか熱帯林とともに生活している先住民族や地域コミュニティへ供給されません。実際に天然林などを含む森林を守り続けている彼らに対して、この「支援」は適切なのでしょうか?
また、Belem 4x Pledgeは、バイオマス燃料の使用を4倍に増やす目標であることから、生産量のさらなる増加が求められるため、天然林の減少や土地の収奪が起こることは想像に難くありません。そして、新たな耕作地を確保するために森林を伐採することが多く、これは森林減少を意味し、COP28の決定とは逆行する取り組みです。
したがって、いずれも本質的な森林減少・劣化への対応ではないことから、FoE Japanは誤った気候変動対策が推進されることへの懸念を示しています。


バイオマスの今後
今もなお日本では、「バイオマスはカーボンニュートラルである」という誤った解釈が修正されていません。微かな希望として、2026年度から10,000kW以上の大規模バイオマス発電がFIT制度における支援の対象外となりましたが、新規認定のみであり、すでに認定されている発電所は引き続き支援されます。
また、中東の不安定な情勢により、石炭火力の制限が緩められ、政府が石油などの確保に奔走している様子から、化石燃料依存から抜け出すという選択肢は取らないことを物語っているでしょう。つまり、日本政府はバイオマス発電の継続的な推進および気候変動対策の逆行をし続けているのです。
国外に目を向けても、パリ協定の1.5℃目標の達成のために、インドネシアではHTEの拡大が推進されていることから、天然林伐採の流れは続き、他国でもバイオマス燃料の生産増加が予想されるため、現地コミュニティの土地の収奪や生産地確保のための森林伐採が行われることでしょう。
なかなか厳しい状況が予想されますが、「バイオマスは環境的・社会的側面から誤った気候変動対策である」という認識やバイオマス燃料の生産地で生じている問題を伝えることで、皆さんとともに気候変動について考え、行動していきたいです。家族や知人との会話で話題に出してみるなど小さなことでも少しずつでも構いません。私たちとともに行動に移してみませんか?


参考文献:
Environmental Paper Network(2025)The Human Rights Impacts of Large-scale ‘Modern’ Biomass Energy.
FoE Japan (2024)バイオマス発電の7つの不都合な真実
FoE Japan (2025)【ウェビナー】脱炭素が脅かすインドネシアの天然林~現場からの報告~
FoE Japan(n.d.)バイオマス