「ヴィ―ガンでいこう!」警察が出動した肉フェス抗議アクション
2026/06/01
5月1日、筆者は東京・お台場で開催されている「肉フェス」を訪れた。肉を食べるためではない。実は、会場前でアニマルライツ団体「PETA Asia」による抗議アクションが行われるとの情報を得ており、それを取材しに行ったのだった。
会場前の芝生では、すでにメンバーたちが準備を進めていた。指示を出していたのは、「PETA Asia」日本担当職員の今井レイラさん。3人の女性が宇宙人の着ぐるみを着込み、男性メンバー1人が上半身裸でテーブルの上に横たわる。特殊メイクで血や内臓を再現すると、宇宙人たちが人間を食べるパフォーマンスを始めた。

「もし宇宙人が 人間が動物にしていることをしたら? ヴィ―ガンでいこう!」
「肉じゃない『誰かの体だ』 ヴィ―ガンでいこう!」
そんなメッセージを掲げると、集まった報道陣たちはパシャパシャと写真を撮り始めた。昨年も同様の抗議が行われていたということもあってか、「去年、グロいって炎上したヴィーガンの団体がまた来たみたいなんです」と、警察かどこかに連絡する関係者らしき男性の姿も見られた。肉フェスに向かう家族連れや若者グループ、外国人観光客たちは、ただならぬ様子に足を止め、顔をしかめたり、目を背けて見て見ぬふりをしたり、逆に周りを取り囲んで写真を撮ったりと、その反応は様々だった。だがその多くは、突然視界に入り込んだ非日常的な光景を咀嚼しきれず、どこか冷笑しているようにも見えた。

そうこうしているうちに、通報を受けた2人の警察官が到着。
「ここは私有地で、許可なくできる場所ではないので、すぐに撤去してください」
「警察の方も、もっと考えてほしい。地球に住んでいる一人の人間としてこの事実をちゃんと考えないといけないと思いますよ」
「それはもちろんですけど、片づけはしてもらわないと」
アクションの中止を求める警察官に対し、今井さんは、そう訴えながら時間を稼いだ。

40分ほどすると、彼らもアクションを切り上げ、死体役の男性も起き上がって血糊を拭き取り、宇宙人たちも着ぐるみを脱いで人間の姿に戻った。
「男の子たちが一緒に写真撮ってくれたのは良かったよね」
「通りすがりの子たちに『死んでるの?』とか言われて、笑いそうになっちゃったよ」
片づけをしながらアクションを振り返るメンバーたち。今井さんは、顔見知りの私の姿を見つけると「中村さん!今日は来てくれてありがとう!」と笑顔を見せた。

彼らが行っているアニマルライツ運動は、「種差別」の観点から動物の権利を訴える運動のこと。日本では戦前から犬猫保護などを訴える「動物愛護運動」はあったが、現在の運動は、革命家・太田竜が1984年に設立した「日本みどりの連合」が起源とされる。太田は、1960年代の新左翼運動に関わった人物で、後にエコロジー運動へと軸足を移した後、動物解放運動を展開。以後、「動物実験廃止を求める会」や「アニマルライツセンター」などが分立し、動物実験や犬猫虐待への抗議、被災動物の保護などを行う傍ら、欧米の動きとも連携し、畜産動物の福祉向上やヴィーガンの普及も進めている。
アクションを行ったPETA(正式には「動物の倫理的扱いを求める人々の会」英名:People for the Ethical Treatment of Animals)は、世界に900万人以上の支援者とおよそ400人の常勤職員を抱える世界最大規模の動物権利団体だ。アメリカ・バージニア州に本部を置き、アジア支部である「PETA Asia」の日本担当職員はわずか2名だという。
ラディカルで本質を問う問題提起や、メディアに取り上げられやすい視覚的インパクトの強いアクションをこだわりとしており、日本でも、サンタクロース姿でケンタッキー前に立つアクションや、「動物を食べることは前時代的」と書かれたプラカードを掲げ、恐竜の着ぐるみで渋谷スクランブル交差点を歩くパフォーマンスなどを行ってきた。2022年には、今井さんが出演した『ABEMA Prime』での議論が炎上し、YouTubeで700万回以上再生されている。

今井さんは、今日のアクションの趣旨について、こう語る。
「肉フェスというのは、肉を食べることを楽しんでいるフェスなわけですけども、実際には動物たちはとても苦しんでいて、その苦しみを食べているということに気づいていないと思うんですね。来場者の方にもメディアの方にもそのことを知っていただきたいなと思って企画しました」
手ごたえはどうだったのか。
「結構たくさんの方に見ていただいて、なかには自分たちもパフォーマンスに参加して写真や動画を撮っていた方たちもいて、その後に私が趣旨を説明したときも、『なるほどね』という答えをいただいたので、何かしら持ち帰っていただけたのかなと思います」
アクションの内容は、海外で考えられたものを国際展開しているものが多いが、なかには日本独自のアクションもあるという。
「宇都宮動物園のゾウの宮子さんの飼育環境に抗議するメールアクションをしたり、諏訪大社で蛙を生贄にする儀式にも実際に行って抗議をしてきました。多度大社の上げ馬神事では、多くの方の抗議もあって、馬が乗り越える土壁が取り払われるなどの成果もあげています」

今井さんがヴィーガンになったのは、東日本大震災のとき。原発事故の立ち入り禁止区域にいた牛たちが繋ぎ飼いされたまま、餓死していったという事実をインターネットで知った時のことだった。
「食べ物も飲み物も与えられず、きっと一か月ほど苦しみながら死んでいったんだと思います。衝撃を受けていろいろと勉強し、動物搾取や種差別をやめるべきだと思うようになったんです」
そこからヴィーガンになるまでは早かった。
「まず、精神的に肉が食べられなくなりました。鶏肉を前にすると『これは動物の身体なんだ』と感じてしまい、切ることもできなかった。最初は魚だけは食べようと思っていましたが、結局ほとんど口にせず、半年も経たないうちにヴィーガンになりました」
その後、渋谷駅前で動物搾取の実態を伝える街頭活動を始めたという今井さん。
「当初は『誰も見ない』と言われましたが、毎週続けるうちに、『最近、大豆ミートを食べるようにしてる』と声をかけられることも増えていきました。コロナ禍で活動を休止していた頃、2021年に『PETA』から声がかかりました。日本での啓発活動をもっと広げられるかもしれないと思い、運動を仕事にすることを決めました」
必ず付きまとうのが「思想を押し付けるな」という批判だ。しかし、今井さんは「『ヴィーガンは押し付けだ』と言う前に、人間が動物に何を押し付けているのかを見るべきだと思います。品種改良や閉じ込め、繁殖の強制、屠殺まで、人間は動物に暴力を強いています。私たちヴィーガンの多くは元々、肉を食べていた側です。その上で考え、選択しています。だからまずは動物搾取の実態を知り、考えてみてほしい。『GO VEGAN』は強制ではなく提案です」と語る。

アクションから2週間後の5月17日、筆者の務めるNGOが主催する「民主主義ユースフェスティバル2026」に、今井さんを誘った。ところが、イベント当日、後輩スタッフから「受付でもめている人がいます」と連絡を受け、受付へ向かうと、そこにはスタッフに抗議する今井さんの姿が。私はすぐに事情を飲み込んだ。
2日間開催されたフェスのうち、1日目にはヴィーガン対応のキッチンカーを配置していたが、2日目には用意できていなかったのだ。それには主催者側と会場側の様々な事情があったが、そんなことは言い訳にならない。今井さんにとっては見過ごせない問題だった。
「政治や民主主義を考えるイベントなんだったら、ヴィーガン対応のキッチンカーは置かないとダメよ!」「なんとか交渉してでも、呼ばないと!」
突然の出来事に困惑しているスタッフもいたが、今井さんの主張は何も間違っていない。全くもってその通りだ。
今井さんや「PETA Asia」の運動スタイルには賛否の声があるだろう。しかし、政治や人権、社会運動に関わる私たちは、もっとアニマルライツやヴィーガニズム運動の訴えに耳を傾ける必要があると思う。
「来年こそは2日間、ヴィーガン対応のキッチンカーを配置できるようにする」
筆者は、フェスの反省会の議事録にそう書き残した。