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身近にある強制動員の歴史

タナカ 2024/09/16

東京都新宿区にあるNPO法人『高麗博物館』。第二次大戦中、日本が植民地支配していた朝鮮半島や中国の一部地域から、強制的に日本に連行されインフラ整備などに従事させられた人々がいる。同館は、日本各地で行われていた強制連行、強制労働に関する資料を多数展示していて、日本の加害の歴史を今に伝える。

 

入口のドアを開けて、まず目についたのは壁一面に掲示されたポスターだった。ポスターには、日本各地の炭鉱、ダム、製鉄所などに強制連行された朝鮮人や中国人の人々が、いかに劣悪で危険な環境で労働し、命を落としていったのかが解説されていた。

 

そんななか目を疑う展示にぶつかった。「相模湖ダム」。ニュースや書籍で見たことがあった炭鉱や製鉄所の名称が並ぶなか、幼少期から友人や家族と度々訪れたことのある神奈川県相模原市の「相模湖ダム」という文字を見つけたからだ。「相模湖ダム」も中国や朝鮮の人たちが強制労働に従事させられていた。身近な場所に強制動員の歴史があったことに驚いた。祖父母や両親からも、学校の先生からも、こうした話を聞くことはまったくなかったからだ。戦争の悲惨さを教わり、平和の大切さを説き、模範的な平和教育が行われてきたと思っていた。しかし、日本の加害の歴史はこんな身近なところで見過ごされてきたのだ。

 

高麗博物館のスタッフの方に、なぜこういった強制動員が起きたのか話を伺った。

 

「強制動員、強制労働は、当時の日本という国の外国人に対する考え方を表しています。近年は、入管行政の問題も表面化し、世間を騒がせていますが、これも外国人への排外主義的な感情のあらわれだと思います」、「政府は『共生社会の実現』なんて綺麗事を言いますが、根底の差別感情は捨てきれていないと思います」

 

耳の痛い指摘だ。しかし明るい兆しもあった。筆者が博物館を訪れている間にも、大学生数人が、「普段受けている授業で関心をもってこちらに来ました」と言って、真剣な眼差しで展示資料を見つめていた。その真剣な眼差しに「共生社会」の兆しを見たと言ったら言い過ぎだろうか。