沖縄紀行
2024/08/31
沖縄にどっぷりつかり始めて早10年。「そろそろ、ルポを書けるようにならないとな。沖縄を取材してこい」という編集長の鬼のような一言で沖縄取材を始めたのがきっかけだった。初めてのルポを書くことになった記者が沖縄に降り立った当日は、よりによって大型の台風が最接近していた。今までに味わったことのない猛烈な台風で体が吹き飛ばされる恐怖を感じながら、次の取材先に向かったのを昨日のことのように覚えている。あの日から10年。まさか記者が沖縄をライフワークにするようになるとは、あの編集長も驚いていることだろう。
10年前、ときの安倍政権は沖縄・辺野古の工事に着工した。2014年7月のことだ。それから約10年たった今日、辺野古南西部は埋め立て工事が完了し陸地化した。そして、今度は軟弱地盤が広がる大浦湾側の埋め立て工事にもとうとう触手を伸ばそうとしている。沖縄をめぐる情勢は混沌としている。
「いつまでも『辺野古』、『辺野古』と言っているようではだめですね。沖縄の革新の人たちは、この10年間、辺野古の現場に立ち続けてきました。それには敬意を表しますし、決して間違っていなかったと思います。でも今の沖縄は残念ながら、辺野古だけをやっていれば、それで戦争を止められる状況ではなくなっています」
普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学の研究室で、そう指摘するのは、同大学教授にして沖縄地元紙・琉球新報元論説委員長の前泊博盛氏。辺野古反対の『切り札』とされた変更不承認処分についての裁判で沖縄県が敗訴したのが昨年(2023年)9月。今後の辺野古の行方を尋ねたら、いつもどおり冷静な口調と柔和な笑みを浮かべながら、そう切り返す。ただ驚きはなかった。というのは、ここ最近、この発言に類する見解を何回も聞いてきたからだ。もちろん念頭にあるのは、この間進んだ沖縄・南西諸島の自衛隊の軍備強化のことだ。
ただし問題なのは、少なくない沖縄の政治家、運動家、学者の方たちが「もはや辺野古だけではない」と悟っているにもかかわらず、はた目には、自衛隊の軍備増強に対する運動の広がりが感じられないことだ。10年前取材した『ミスター辺野古』こと山城博治さん(沖縄平和運動センター顧問)は、こうした状況に危機感を抱き、新たな県民運動を起こすべく動き始めている。やはり新たなスタートを切るには山城さんしかないか。そう思い山城さんの携帯に久しぶりに電話することにした。「もしもし、ナカムラですが、お久しぶりですね……」。